札幌競馬場の最寄り駅であるJR桑園駅。
無料の送迎バスも出ているのだが、私は敢えて競馬場までの10分少々の道のりを歩くことにしている。
いま、地下道や連絡橋で直接駅と繋がった競馬場が多い中、札幌競馬場は駅から公道を歩いて向かえる数少ない競馬場になった。
桑園駅周辺は高層住宅などの開発も一部で進む一方、まだ古い民家や店舗の建屋も残されていて、競馬場へ向かう道すがら、往時のこの場所の雰囲気を偲ばせる風景にも行き会うことが出来る。歩道に立つ街路樹の脇には、ピンク色の色鮮やかなタチアオイが綺麗な花を咲かせ、私たちの目を楽しませる。
花の風景は、競馬場に近づいても続く。競馬場入口から入場門へと続く通路の右手、広々とした場内との風景を隔てる柵には、色鮮やかな花々が飾られており、独特の雰囲気を醸し出している。昨年は、柵の向こうの場内側に真っ白なアジサイの花が無数に咲いており、芝生の緑との鮮やかなコントラストには思わず目を奪われた。場内に入れば、パドックサイドを中心に、花と馬のある風景。札幌競馬場の色彩豊かな風景は、他の競馬場にない独特な雰囲気を醸し出し、私たちの目を楽しませてくれる。
札幌競馬場は、競馬そのものの風景も実に多彩。
パドックでもコース際でも、馬がとても近くて迫力があるし、スタンドの高い場所からはコース全体を一望できる手頃なスケール感も魅力だ。
そんな競馬の風景にも、同じ場所からだけではどうしても見慣れてきてしまう。
そんな向きには、地下道を通ってターフパーク(内馬場)に足を運ぶことをお勧めしたい。
コースを挟んで反対側から見るスタンドの全景は、思いのほか新鮮。ターフパークにも馬券売り場や飲食施設は充実しており、エリア全体は小さな水路や草花、子ども向けの遊び場もあって、あたかも一つの公園のように整備されている。女性のためのリラックススペース「UMAJOスポット」も、札幌競馬場ではターフパーク内のテラス席に設けられている。
ターフパークからのレース観戦は、一段高くなっている「セイテンスタンド」からの観戦がお勧め。
そこに上がると、普段は芝コースに隔てられて遠いダートコースが、手が届くほど近くに見える。
この場所から、スタンドを背景にしてダートコースで競り合いを演じるレースを見れば、スタンド側から見るものとは全く趣の異なる、新鮮な競馬の風景に出会えるはずだ。
一方、競馬の楽しみはレースが行われている間だけでは終わらない。
競馬観戦の後、酒食をともにしながら仲間と語らい、明日への英気を養う時間も言わば競馬の「延長戦」。
勿論、札幌の場合はすすきのを中心とした繁華街での楽しみを思い浮かべる方も多いと思うが、文字通りの「延長戦」を楽しめる場所として紹介したいのが、競馬の場外発売所「Aiba札幌駅前」に併設されたカフェ&ダイニングバー「スタンピーズ」だ。
札幌駅北口改札から徒歩2分だから、札幌競馬場を出てから最速20分程度で着けるとても便利な場所にあるこのお店。
カジュアルな雰囲気でお酒や食事を楽しみながら、場内に多数あるモニターで放映されているレース映像を見ながら、馬券は在席投票システムにより酒席を離れることなく購入出来るという、競馬ファンや関係者にとっては文字通りの「夢のような」場所なのだ。
今年は、暑熱対策の一環で一部日程において「競走時間帯の拡大」が実施される。
具体的には16時過ぎに札幌競馬の最終レースが終わった後、引き続き18時25分まで新潟競馬が行われることになる。ならば、札幌で最終レースが終わるタイミングで一足先にこの「スタンピーズ」に足を運べば、「0次会」としてグラスを傾け食事を楽しみながら、引き続き馬券を買って新潟最終レースまで競馬を存分に楽しむことが出来る。札幌駅近辺まで来てしまえば、すすきのの繁華街も目と鼻の先。そこから先は目指すお店に移るのもいいし、そのまま「スタンピーズ」に留まれば、引き続きばんえい帯広や高知・佐賀のナイター競馬と馬券も、最後までたっぷりと楽しむことも出来るのだ。
わずか7週、されど、かけがえのない開催14日間。
今年も札幌競馬場では、わくわくするような色彩ある風景、そして人々との出会いと賑わいに、きっと行き会えるに違いない。そんなふくらむ期待感を胸に、札幌の夏本番を告げる競馬の幕開けを、いま心待ちにしているところだ。
坂田 博昭(さかた ひろあき)
【プロフィール】
1968年東京生まれ。ブロードキャスター。
グリーンチャンネル『中央競馬中継』キャスターを18年間勤めたあとは、「競馬を契機に人々が集まる場所」をテーマに、全国の競馬場や場外発売所での予想イベントなど「現場」での仕事にも注力。日本に数名しかいない、フリーランスのカーリング実況アナウンサーの草分け的存在でもある。